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Beauty Source キレイの魔法

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恋愛セミナー54【椎本】

第46帖  <椎本1 しいがもと>

桜の花が咲く頃、匂宮は長谷寺に参拝する途中で、念願だった宇治に立ち寄りました。
薫もやってきたので、宇治川の向こう岸にいる八の宮の姫達への思いを伝えてもらえるだろうと
期待しつつ、お供の貴族達と管弦の遊びを始めます。

聞こえてきた横笛の音で源氏のことを思い出し、元の大臣の一族の笛の音に似ていると感じる八の宮。
すっかり華やかな生活から遠ざかり、姫達の婿になる相手も見当たらず、
薫に望みをかけることもできないと嘆きつつ、川向こうへ歌を届けます。
「山風に霞みを払う笛の調べは聞こえますが白波が私たちを隔てているようですね。」
薫宛にきたその文はとても優雅で、心がそそらえれた匂宮は「返事は私が。」と申し出ます。
「川の両岸に波で隔てられていても、宇治川の風よ、どうか私の思いをそちらへ通わせて。」

薫は楽を奏でていた貴族達も誘い、川を渡って宇治の山荘を訪ねます。
古来から受け継がれた楽器をさり気なく取り揃え、貴族達の演奏を促す八の宮。
山荘の風流な様子に人々は魅了され、姫達への興味もかき立てられていました。
対岸に残された匂宮は気軽に動けない身分を残念がり、桜の枝に添えて再び歌を贈ります。
「姫君たちのような山桜の香るあたりを訪ねてきた私は、同じ皇族として
同じ桜を挿頭(かざし 髪や冠に挿す花)にするために手折ったのです。」
八の宮は中の姫に返事を書かせました。
「あなたは花を折るために、私のいる山深い垣根を通り過ぎただけの春の旅人。」
それからは、匂宮は頻繁に歌を届けるようになり、返事はいつも中の姫の役目になりました。

七月になって、薫が宇治を訪ねると八の宮は自分の死後、姫達のことを世話して欲しいとさりげなく頼みます。
誠実に尽くすと約束する薫は、中納言という年齢にしては重い身分になっていました。
大姫は25歳、中の姫は23歳になり、八の宮も今年は厄年に当たっているので後顧の憂いが少なくなったことを喜びます。
姫達に琴を弾かせ「これほどまでに近しい間柄になりましたので、あとはもうあなた方のなさりたいように。」
と伝える八の宮。
「お会いできるのは今宵限りと思い、つい繰り言を申しあげてしまいました。」と泣く八の宮に、
姫達のことを約束し「公務の忙しい時期が終わりましたら、また参上します。」と薫は答えます。

御簾越しに見える薫は月影に照らされて言いようもなく美しく、姫達は気が引けてしまいます。
気持ちをあからさまにすることはなく、姫達と落ち着いて話をし続ける薫。
匂宮の姫たちに対する気持ちを思い出した薫は、
「何故自分は人とはこうも違っているのか。八の宮からも許されているというのに事を急ぐ気持ちが起らないなんて。
それでも、姫達を他人にとられてしまったら、きっと悔やむだろう。」
と、姫達のことはすっかり自分に任された気持ちになっているのでした。

恋愛セミナー54
1 薫と姫たち   どちらを選ぶか
2 匂宮と姫たち  まだ見ぬ思い人たち

薫の慎重さ、匂宮の積極性がだんだんと現われはじめました。
思いを伝えようと、薫宛の文までとりあげてしまう放縦さ。
何もかも許されていると奢っていた源氏的な要素が見えます。

若き日の源氏と違うのは、皇族という身分がらフットワーク軽く動けないこと。
源氏も准太上天皇になってからは、気軽に出かけることができなくなっていましたね。
それゆえ、薫をせかし、手足のように使ってなんとか理想の女性にめぐり合おうとしています。
ミニ源氏というべきか、必死になって張り合っているところは頭の中将的。
お祖父さま世代と比べてゆくのもおもしろいですね。

据え膳が目の前にあっても簡単に箸をつけない薫は、落葉の宮で苦労した夕霧的な要素があります。
夕霧も、始めは柏木に頼まれて世話をしていました。
柏木は藤原家の嫡男、夕霧も母・葵上が柏木の叔母にあたる藤原家出身。
薫には、皇族と藤原家の色濃い血があわせて流れているようです。

薫の中では、出家への思いと、師とあおぐ八の宮の意向に応えたいという思いがない交ぜになっている。
匂宮への配慮もあり、奥ゆかしい大姫か、艶やかな中の姫かどちらを選んだらよいか決めかねている。
しかも、自分自身、まだ恋をしているのか義務なのかよくわからない。

たくさんの女性が自然に集まってくる薫ですが、不義の子であるがゆえのブレーキのために、
23歳になるこの時まで、恋することを封印してきたようです。
それがいきなり、心の準備もなく師匠の掌中の珠を二つながらに差し出されては、
戸惑うのも無理はないかもしれません。

藤原家の持つ実直な現実性と源氏的な馥郁(ふくいく)たる非現実性を併せ持ち、それを持て余し続ける薫。
薫の人生は、その内包する性格のように、二つの選択肢の中でもがく場面に何度も出逢ってゆきます。


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